巨人の肩に座る
『野蛮から生存の開発論‐越境する援助のデザイン‐』(著者:佐藤仁)
■本のタイトル
『野蛮から生存の開発論‐越境する援助のデザイン‐』(著者:佐藤仁)
■どんなときに読むか
·研究のアイデアが出てこなくて行き詰ったとき
·研究することの面白さを忘れかけているとき
·「はしがき」で魅力的な文章を書けるようになりたいと思った時
■おすすめしたいポイント
これまで何冊もの学術書を読んできましたが、読んでいて鳥肌が立った本はこの一冊だけです。
読み始めると、まるで開発研究という大海原へ冒険に繰り出していくような、そんなワクワクした気分にさせてくれます。
開発研究にとって重要なエッセンスがあちこちに散りばめられていて、自分にまだ足りていないピースを探しながらいつもこの本を読んでいます。
特に私が好きな章は「第五章:想定外はなぜ繰り返されるのか」です。
どれだけ善意に基づく行為でも、開発援助には想定外の意図せざる結果が伴う。人々の生活を豊かにしてくれるはずの開発事業が環境を破壊して、劣化した環境が今度は貧困を招来してしまうというの負の連鎖は「想定外」の典型である。
という緒言から始まるこの章は、自身の研究の問題意識である「女性の経済参加を促そうとするデジタル化政策が、むしろ女性の経済行動や選択を制限し、世帯内ジェンダー格差を拡大しているのではないか」という問いを導いてくれました。
他の章もすごく面白いので、ぜひ何度も手に取って読むことをおススメします。
(by 綿貫竜史)
『メノン』(プラトン、藤沢令夫訳 岩波書店 1994)
■本のタイトル
『メノン』(プラトン、藤沢令夫訳 岩波書店 1994)
■どんなときに読むか
「現在」から一歩離れてみたい時に。
■おすすめしたいポイント
いつも紀元前の人びとの姿に惹かれます。春秋戦国の諸子百家、ガンジス川のブッダ、そして古代ギリシアの哲人。学問や研究などの名目がまだ定着していなかった時代を生き抜いた彼らは、ただただ人や世界のあり方を真剣に問い続けていました。格好良くて、逞しくて。
『メノン』は、時空を超えてその知恵の温もりを伝えてくる一冊でした。
はじめて読もうと思ったきっかけは、それに書かれている「探求のパラドックス」を「博士のパラドックス」にも読み換えられたからです。すなわち、
学問の意義について何も知っていなければ、それを探求することはできない。しかしそれを知っているならば探求の必要はない。
それに対して、ソクラテスは有名な「想起説」を説き、さらに知識と「正しい思わく」の異同を語っていました。それを読んでいくうちに、私のパラドックスも自然に解いてきて、気分爽快。
やはり、水道からの知識よりも、知のみなもとの湧き水のほうがいつになっても涼しくておいしいなぁ、と感じさせられる一冊でした。
(by 汪牧耘)
『社会と経済 :枠組みと原則』(マーク・グラノヴェター、渡辺深訳 ミネルヴァ書房 2019)
■どんな時に読むか?
自分の研究がミクロの視点に偏りがちなとき
■おススメしたいポイント
・社会学と経済学という相違が大きい分野をつなぐ試みをしています。異分野をつなごうとする姿勢は、学際的研究を行う上で忘れてはならないものだと思っています。
・人々は重要な情報を、「つながりの強い人」からというより、「つながりが弱い人」から得るという、弱い紐帯仮説のエッセンスが紹介されています。
若手部会も、他のコミュニティよりもつながりが弱くても、有益な情報を得られるようなコミュニティにしたいですね!
(by 宮川慎司)
武内進一(2009)『現代アフリカの紛争と国家 ポストコロニアル家産制国家とルワンダ·ジェノサイド』明石書店
■どんな時に読むか?
日々の研究で行き詰まった時。
書き方の参考にしたい時。
■おススメしたいポイント
日本のアフリカ研究者として私が尊敬してやまない武内先生の代表作。着実に積み上げられた理論、単一事例の緻密な過程追跡研究。私もいつかこんな研究をしてみたいと常々思っています。
「現実の厚みに比べれば、抽出された特質やモデルはそのごく一部にすぎない。どのようなモデルも、不十分だ、恣意的だ、との批判を免れ得ないだろう。しかし、現実をそのまま追体験できない以上、それを解釈するために抽象化する作業は不可欠である。モデル化の努力とそれに対する建設的批判を通じて、研究は前進するはずである。」(p.23)
研究を進めるうえで、この一節には常に励まされてきました。内容もさることながら、研究の型を勉強する意味でもおすすめです。
(by 大平和希子)
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■どんなときに読むか
人生、生き方(研究者としての自分の立ち位置)について考える時。時々、得体の知れない不安に直面した時、自分の殻を破りたくなった時。(笑)️
■おすすめしたいポイント
仏教僧侶と起業家の対談形式でhow to liveを考える「視点」について提示している本です。ちょっとスピリチュアル系か?!と思われるかもしれませんが、「パラダイムシフト」とタイトルにあることの意味は、私たちが生きていく上で知らず知らずに身につけている色眼鏡(フレーミング)を問い直すことをテーマにしている、というところにあります。なので、一般的には人生教本なのですが、私にとっては研究する上で根っことなるところ:epistemology/ontologyについて、フレーミングとはなんぞやということについて、自分の人生に準えながら思考することができる一石二鳥な本でした。
各章の小見出しについてる著名人の名言語録もおすすめポイントです!
(by 近江加奈子)
『マンガ 老荘の思想(講談社)』(蔡 志忠 (著), 和田 武司 (翻訳), 野末 陳平 (監修))サイド』明石書店
■どんなときに読むか
「開発って本当に必要なのだろうか?発展すること、成功すること、金持ちになることって本当に大事なことなの?」といった感じで、現代の成功モデルに疑問を感じた時、疲れた時に読む本です。️
■おすすめしたいポイント
これ、マンガなのですが、恥ずかしながら私の座右の書で、かれこれ十数回は読み直し、バングラデシュにもアメリカにも持って回っている本です。特に荘子編はストーリー仕立てになってるので、とても読みやすいです。他の老荘思想の本も何冊か読みましたが、この本の絵が老荘思想っぽい力が抜けた感じで合っていて、それも相まってマンガ版を紹介しています。
儒教的な「社会は徳を高めた人が正しく治めるべき」「仁義など、内面を高めていくことが大事」といった一見正しそうな孔子の思想を明確に否定して、「道(Tao)」という、ありのままに、水のように流れに任せて形を変えて生きていくようなことを訴え、「大道廃れて仁義あり(道ができてないから仁義などというくだらない考え方が必要になる)」とか「国は誰が治めているか気づかないくらいが理想の状態」とか「役に立たないものも見方を変えれば役に立つ」とか、ハッとさせられる内容が多く、現代社会に疲れたみなさまにオススメです。
また、関連して、昨年Podcastで「老荘思想とデジタル・エコノミー」というかなりマニアックなテーマを取り上げていますので、ご興味ある人はお聴きください。「ブロックチェーンってかなり老荘的だよね」とかいった変な話をしています。