熱気球

 2021年国際開発学会・春季大会 
ラウンドテーブル
 「開発」の多重性 
——​アジア・アフリカから語り始める——

2021.11.23(日)14:20-16:20

セッション番号:B5

本ラウンドテーブルの開催趣旨

 

 開発研究における欧米中心主義がいまなお指摘されている。「開発」が特定のビジョン、プロセスやアプローチなどといった複合的な意味を持つ概念として世界的に普及したのは、第二次世界大戦以降である。それをめぐる研究の多くは依然として欧米諸国、なかでもアメリカとイギリスの学者や大学機関、そして世界銀行をはじめとする国際機関が中心に行われている。他方、新型コロナウイルスの蔓延への対応や米軍のアフガニスタン撤退などの出来事から見受けられるように、欧米諸国の社会問題が露呈している。こうした中、これまで国際開発において発言権を大いに握ってきた欧米諸国が世界をよりよい未来へとリードできるのかが、以前に増して問われている。

 人間社会の過去と未来をつなぐ開発を研究対象とする若手研究者は、どのように新しい「開発」の意味を見出していくことができるのか。本ラウンドテーブルの関心はここにある。現状を乗り越えるため、これから、アジア・アフリカのようないわば「非欧米社会」に根ざしている開発知の具象化が重要となるとともに、研究者同士の連携が必要だと考えられる。しかし、それに関して、日本ではアジア・アフリカにフィールドを持つ若手研究者が多くいるものの、「開発」をめぐる互いの問題意識と知見を十分に共有してきたとはいえない。

 本セッションでは、中国、南アフリカ、バングラデシュなどといった様々な国や地域を研究対象にしている若手研究者の発表と議論を中心とする。具体的には、開発が目指す「豊かさ」の多様性・重層性に目を向け、以下の内容を取り上げる。汪は、日本語と中国語を手がかりに、開発概念が「本来の力や性質の開花」から「経済」や「介入」へと定着した歴史から、「開発」にある豊かさへの発想の変化を浮き彫りにする。近江は、南アフリカのクワクワ地域を事例に取り上げ、植民地化やアパルトヘイト等の歴史的理由で伝統的な暮らしの様式が失われた現地において、土着型起業やアートを通じ新たな文化の創造に取り組む若者達の活動を紹介し、彼・彼女たちとの対話から見えてきた「豊かな地域」像を掘り下げる。綿貫は、「人間になる」をはじめとするバングラデシュの思想を取り上げ、現地で脈々と築かれてきた文化と歴史の中に豊かさの本質を見出すことを試みる。須藤は、東ティモール国内における複数の固有言語において、「開発」や「豊かさ」を表す言葉の原義を明らかにした上、それらの言葉の今日的意味を東ティモール人の若者を中心とする視点から理解する。神は、フィリピンの農村部に着目し、経済開発がもたらす「消費に伴う豊かさ」と生活習慣病をはじめとする個人の生き方との相克関係を考察する。

 以上の共有を踏まえた議論を通して、「非欧米社会」における「開発」を語りはじめるための切り口を明らかにする。それぞれの地域・関心に立脚する若手研究者・実務者が見てきたアジア・アフリカの開発像を分かち合った上で、今後の実現可能な交流活動・共同研究のテーマを具体的に定めることを望んでいる。

プルメリアの花

企画責任者:  

汪 牧耘(東京大学大学院)

司会:          

近江 加奈子(国際基督教大学大学院)

発表者:        

綿貫 竜史(名古屋大学大学院)

須藤 玲(東京大学大学院)

神 正光(元名古屋大学学生)

​当日の発表資料はこちら↑

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セッションを終えて

 

 本ラウンドテーブルは、「開発とは何か」という古くて新しいテーマに対して、「非欧米社会」に立脚する若い世代の研究者なりに改めて問題提起をしようとした、野心的な計画だといえる。

 

 当日、五人の若手研究者が、東ティモール、バングラデシュ、中国、日本、フィリピンと南アフリカから見た「開発」の多重性を共有した。それは、単一言語や国際的な観念上の約束だけでは回収できない多様な「開発」のあり方を横並びするだけではない。多様なあり方の関連性を見出し、さらにひとりの若手研究者としてどのように「開発」に向き合っていくかという点まで踏み込んだことで、有意義な議論になったと考える。

 

 なかでも、①開発をめぐる知識と実践が「言語」によって区切られている現状と、② 開発を目指す「豊かさ」の先にあるもの、という2つの論点をめぐって、登壇者は意見を活発に交わしていた。具体的には、「開発」を研究していくにあたって、ある国や地域の人びとの年齢、人口規模、時代体験や時間感覚などの視点の重要性が言及された。また、尊厳の奪還、アイデンティティの追認、素朴の維持、人間性への回帰などといった、非物質的な「豊かさ」が現実的に「開発」の語り方を形づくっているような実態もあぶり出されている。

 

 本セッションでは合計30人ほどにご参加いただいた。フロアから、障がいを持つ人が求める開発、開発と近代化の線引き、さらに開発の次に語り始めるべき議題など、示唆に富むコメントが多く示された。開発に携わる人びとが「開発」を語ろうとする意欲と、語り方を洗練していく必要性を実感したところ、「若手による開発研究」部会のこれからの活動に着手するヒントを得たといえる。今後、若手の開発研究者が共同研究を通して、既存の「開発」の語りを相対化し、アジア・アフリカからの知見を体系的に構築していくことを望む。

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